週刊ウンチク86「柿はフルーツの代表選手」お店ばたけ事務局

◆柿はフルーツの代表選手
昔懐かしい田舎のたたずまいのひとつに、藁葺き屋根の民家と実をたわわにつけた柿の木がそばにある風景でしょうか。今にも木枯らしが吹きそうな時期、葉っぱもまばらになって、冬の到来が目前であることを告げてくれます。熟柿を目当てに集まる野鳥のために、何個か残しておくのが古来からの礼儀で、青空をバックにした色鮮やかな柿は、”食欲の秋”の代表選手です。もっとも、飽食日本の民は、ほとんど収穫せず烏の餌にしているようですが。
日本の代表的な果実である柿は、もともと中国原産の渡来種で、奈良時代に入ってきたそうです。その後改良されて、1000種近くあるようで、欧米では東洋の味覚として好まれているようです。

田舎育ちの私は子どもの頃、納屋の大屋根に上って、伸びた枝から柿の実をいくつも採って食べたものです。そのうち大雪の年に木が倒れて屋根を壊しそうになり、翌年近所の人の助けを借りて切り倒しましたが、情けない想いで見ていたことを思い出します。
どうも禅寺丸という品種らしいですが、自信はありません。キウイフルーツぐらいの大きさで、地方に出掛けた折、たまに見掛けることがあります。甘柿が無くなって、近所の柿の木を狙い始めた柿好きの私を見かねたんですね、祖父は。畑や家の回りに10数本の柿の木を植え始めました。なぜかそのほとんどは渋柿だったんです。

<柿木には登るな>
柿木は硬く、それだけ折れやすいんです。だから、丈夫そうに見える枝でも小さな子どもが乗っただけで折れることがあります。雪解けの春先、ポッキリと折れたかなり太い枝を見ます。大人から”柿木に登ったらいかんぞ”と言われるのは、そのためです。硬いがために、反発力も大きく、ゴルフのウッドヘッドになっているものもあるそうです。珍品好みの方は、どうぞ。随分以前に、マニアの方で柿木のヘッドを中国で造らせたという話しをテレビで放映していました。

<元は、渋柿?>
甘柿と渋柿がありますが、甘柿も熟して甘くなる前は、やっぱり渋いですよね。おおもとは渋柿だったんでしょうか。そういえば、アーモンドの原種は、一粒で人を殺すほど毒素のあったものを、数千年かかって食べられるように改良したものなんだそうです。
渋柿を台木にして甘柿を接ぎ木すると、美味しい実をつける丈夫な木に育つようです。だから、祖父も最初は渋柿ばっかり植えていたんですね。でも2本だけは、渋柿のままでした。

<シブは簡単にとれる>
ところで、柿の渋味の犯人は、タンニン。渋柿の実をかんだとき、このタンニン細胞膜を壊すため、渋く感じるんです。ところが甘柿は樹上でアルコールが発生し、このタンニンが溶けにくくなるんですね。
甘柿はもちろんそのまま食べればいいんですが、渋柿はどんな風に食べていますか。

ひとつは、吊し柿(干し柿)ですよね。皮をむいて軒先に吊しておくと、白い粉をふいて甘くなります。生のままより、干し柿の方が好きという人もいます。陽と寒風にさらされて、能登の名産”ころ柿”は表面が真っ白の上物です。

もうひとつは、”さわし柿”。
方法はいくつかあります。温水に浸すか、蔕(へた)に焼酎を付けて渋を抜く方法。なかには、ウィスキーを使う人もあるようで、とにかくアルコールであれば、なんでもよさそうです。
では、”さわし柿”を自宅でやってみましょう。
「温水方法」は、どの家でもできます。少し熱めの湯に、一晩浸けておくだけで、甘くなります。熱すぎると、柿の皮がズルズルになる”やけど”をしますから、くれぐれもご注意!

最近のお風呂は、温水器の湯ですので、すぐに冷めますから、時々様子をみて湯を足してやります。そのうち、プーンと酒のようないい匂いがしてきます。柿の実にあるアルコールがでてきて、渋味の元であるタンニンを覆っているんです。昔の風呂は、釜の下で薪を焚く五右衛門風呂でした。そのため、なかなか冷めませんので、翌朝になれば”さわし柿”が食べられたんですね。
昨年、見よう見まねで風呂に入れてみました。10時間毎に湯を足して、1日半掛かりましたが、見事成功!--昔、ばあちゃんが食べさせてくれた”さわし”の味には及びませんでしたが。今年もう一度チャレンジですね。
私は試していませんが、「アルコール方法」は、へたを焼酎に浸したあと、ナイロン袋に入れておくだけ。2~3日で食べられるそうです。
渋みが残って、”失敗”したからといって捨てないでください。甘くなるまで湯を足したり、焼酎に浸け直せばいいんですよ。
<医者要らず>
昔から、柿は薬用効果に優れていて、さまざまな使われ方をしています。

その1.カリウムが豊富に含まれていて、利尿作用が高い。腎臓の働きを助けるため、アルコールの飲み過ぎに良く効きます。クラブなどで柿が出てきたら、悪酔い防止にもなりますが、「もっと飲めるようになりなさい」という意味かも。
柿を食べると体が冷えるというのは、利尿作用があるからですが、小児には夜食べさせないことです。つまり、”ふとんに地図をかくのが上手になる”からです。ちなみに、柿好きの私はかなり上手でした。
蔕(へた)を日干しにしたものを生薬の柿蔕(してい)といい、夜尿症に効くとか。わからないものですね~。変わったところでは、しゃっくりを止めるにもいいようです。

その2.血圧降下の作用が高い。
高血圧の方は、生のままでも干し柿でも、とにかく食べてみてください。

入院中だった祖母は、自宅で作った干し柿の差し入れをこっそり食べていたんです。担当の医者は高血圧の処方で投薬していましたが、ある日検査結果を見ながら「そんなはずはない」とひとりごと。いつの間にか、干し柿が血圧を下げていたんです。祖母は黙って聞き流したようですが、それにしても無駄な投薬もあるもんですね。

その3.殺菌作用が高い。柿の産地には、柿の葉寿司があるようですが、石川の加賀地方にもあります。それも夏の真っ盛り、お盆の前後に夏祭りがありますが、柿の葉に寿司飯を盛って、その上にサバやサケの切り身などを乗せた押し寿司です。

酢の効果もありますが、柿の葉の殺菌作用が効いて、2,3日は常温でも大丈夫です。笹寿司なども、冷蔵庫のない時代に携帯食として、重宝がられていたんでしょうね。自然の力が偉大なことを知らされます。

<一番人気は、富有柿ですが>
甘柿にしろ渋柿にしろ、種類は豊富ですが、岐阜原産の「富有」、静岡の「次郎」、富山の「水島」が甘柿の3本指です。資料によれば、収穫量は和歌山、奈良、福岡県がトップクラス。
かつては歯触りが堅めの次郎柿が多かったようですが、近年は富有柿が人気で、スーパーマーケットに並ぶのは、ほとんどがこれ。時期的に遅めが食べ時の水島も美味しいですよ。

名前は知りませんが、通称「山高」は、先がとんがっていて、人の拳よりふた回り以上も大きい渋柿の一種があります。
11月中旬、まだ実が堅いうちに収穫して、1か月半ばかり寝かせておくと、ぽっちゃりと柔らかく、真っ赤に色づいてきます。そのままでも甘くて美味いんですが、炒り粉や麦焦がしなどを混ぜ、砂糖を付けて食べるのも、一興です。今年も実りの頃が楽しみです。

10月から1月まで楽しめる柿。もぎたての柿をジーパンで磨くと、ワックスをかけたみたいにピカピカに光り、皮を歯で囓りとって実を食べるのが、たまりません。

それほど手を入れなくても勝手に実を付ける柿は、手頃なデザートフルーツです。

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